【基礎編】真正性とは
こんにちは。
今回は、文化遺産に求められる概念である真正性について説明します。
「旅行で文化財を見学するぐらいなのだから、真正性なんて知らん」と言われたらそれまでなのですが、世界遺産検定の受講など、一つの学問として世界遺産を学ぶ上で、非常に重要な考え方の一つが、今回のテーマの真正性です。
真正性とは
真正性とは、建物や文化財などは、それぞれの文化的背景の独自性や伝統を正しく継承していることが求められるという概念です。
例えば耐久性に優れた新素材を投入して、オリジナルの姿かたちとは別物になってしまった建造物は、真正性の考え方から逸脱してしまうため、基本的に文化遺産登録からは除外されてしまいます。
まぁ、当然と言ったら当然の考え方かもしれません。清水寺を補強するために、全面ガラス張りとか、コンクリートで作り直したら、もはや歴史的価値はありませんので。
この真正性という概念を理解するにあたり、二つの国家憲章を知る必要があります。
まず、アテネ憲章から説明します。アテネ憲章とは、文字通りギリシアのアテネで採択された憲章です。もう少し細かく言うと、1931年にアテネで開催された、第一回「歴史的記念物の建築家・技術者国際会議」にて採択された憲章で、記念物や建造物、遺跡などの保存や修理に関する基本的な考え方を明確に示したものです。
第二次大戦よりもおよそ10年前に、文化財の保全についてガイドラインを示したという意味では、先進的なものでしたが、後々に一般的になった考え方と大きく異なっていた点がありました。
それは、文化財の修復の際に近代的な技術と材料の使用を認めていたという点です。
時代は変わります。1964年、イタリアはヴェネツィアにて、第二回「歴史的記念物の建築家・技術者国際会議」が開催されました。そこで採択された国際憲章がヴェネツィア憲章です。今回も、建築物の保全や修復に関する事を目的としてますが、アテネ憲章と大きく異なる点があります。それは、遺産修復の際は、建設当時の工夫・素材を尊重することを謳った点です。
これにより、修復にあたって考古学的・歴史学的にも検証の上、オリジナルの建築物としての姿を求められる事となりました。このヴェネツィア憲章の考えこそが「真正性」の概念へと繋がりました。
なお、このヴェネツィア憲章の翌年、真正性が確立されているかを調査するための非政府機関であるICOMOS(イコモス)が誕生しました。よくニュースとかで「専門機関が調査に来て、世界遺産登録のお墨付きをもらった」とかやっている時がありますが、それはこのICOMOSの人たちです。
「1964年に誕生したヴェネツィア憲章の原則を基に、その翌年にICOMOSというNGOが発足した」という風に、セットで覚えた方が分かりやすいと思います。
奈良文書
真正性を知る上で、あと一つ理解しておきたいものがあります。それは1994年の奈良市で開催の会議において採択された、いわゆる「奈良文書」というものです。
もともと、真正性があると認められる理想の姿とは、文化財が建造されたオリジンの姿を維持・保存されているという事です。しかし、そうなると必然的に一つの問題が生じます。
それは、石の文化と木や土の文化とでは、そもそもが保存能力が異なるという点です。言うなれば、かつての真正性の考え方は、時代を経ても変化しにくい石の文化である西欧思想に基づいた考え方でありました。
その矛盾点の解決策となったのが、日本主導による奈良文書です。
奈良文書では、遺産保護は、気候や環境などの自然条件と、文化・歴史的背景などの相互関係で考えるべきと謳いました。つまり、その土地の気候風土の中で営まれてきた文化財の保存技術などを受け継いでいるものは、真正性が担保されているという考え方です。
今日、世界中の様々な文化圏において、多様かつ魅力的な文化遺産が存在しますが、これは奈良文書の採択により、真正性をより柔軟に考えられるようになったためとも言えます。
文字で読んでても分かりにくかったかもしれませんが、
「真正性の概念」「二つの国際憲章の違い」、「真正性の概念をアップデートさせた奈良文書」、真正性について最低限覚えておく点はこの3つです。
今回は以上です。